『マーマーマガジン』20号の農特集でお届けした、自然栽培を続ける、高橋博さんのお話。21号からはじまった連載を、マーマーな農家サイトに場所を移して続けていきます。高橋さんの語り口調そのままにお届けします。
構成=服部みれい/再構成=松浦綾子
第5話 入った毒は、自然がすぐに処理をしてくれる
いい土には「温かい」、「柔らかい」、「水もち・水はけがよい」という三つの条件があるんだ。うちの畑の土はまさにその条件を再現しているから、みんなそれに驚くよ。
いい土の場合は、なにか汚いものが入ったとしても、作物には症状をださないで、その土自身がきれいにしてしまう。だって土には浄化するちからがあるからね。自然界では隣からなにか入ってきても問題ない。そんなものは浄化してしまう。自然が教えてくれているじゃん。でもいまの土は汚れているから、浄化しきらないで土からでてくるんだよな。汚れた水になっちまうんだ。 このあいだ、虫が大発生していたけど、自然栽培の畑には来なかった。よく「無農薬は虫だらけ」っていう先入観をもたれるんだけど、だからこそ安全なんだということを訴え続けるしかないんだ。虫が来るのには原因があって、それは環境がまだまだ本物になりきっていないからなんだよ。 隣にはごぼう畑があって、ゾウ虫みたいのがでるんだ。大量の虫だけど、ほとんど一般の畑のほうにいる。そりゃ、何匹かはこっちの畑にもきていたけどさ。まるで線を引いたようにこっちに来ないのは、うちのメンバーみんなが見たよ。あの虫はきっと毒を食いにいってたんだよ。きっと、その役目のもとに生まれたんだよ。窒素が好きなんだな。それが彼らにとっての餌なんだろう。だから、窒素がない自然栽培の土は彼らにはおいしくなかったんだろう。こっちには虫が来る必要がないから、心配いらないんだ。
窒素は作物づくりに必要だけど、化学肥料の窒素では人間の食糧はまかないきれない。そんなエネルギーではね。最初ね、農協の指導員に「お前らのやり方でやっていたら、食糧難を起こす」っていわれたんだよ。確かに当時は食糧難の量しかつくれなかったけど、いまじゃそのひともなんともいえないくらいになっちゃった。 うちの弟は役所で働いていたんだけど、「お前の兄貴ってすげぇなぁ」といってもらえるそうだよ。「あれが本当のやりかたなんだなぁ」って。みんな今だからそういうことをいってくれるよ。自然栽培でもやっていけるという事実がでたからね。 でも、当時の風あたりは強かった。「あんなやり方では肥料会社も農薬会社もつぶれちゃう」とかさ。研修生に、肥料や農薬をつくっている会社のひとがいるんだ。「あなたのところもそうだよな。戦争のときには鉄砲をつくったけど、今も鉄砲をつくってるか? 肥料や農薬を使わない時代がきたら、肥料や農薬つくっても仕方ないわけだよ」っていっているよ。肥料や農薬を使わない農法が広まれば、彼らみたいな大企業も考えるだろう。鉄砲がつくられなくなったみたいに、つくってもしょうがないものが消えていくかたちで、肥料や農薬も消えていけばいいと思う。つまらない理由づけで否定してくるひとの多いこと。でもいまはそれにも「なんでもいっていいよ」という態度をとれるようになった。なによりも強いものが事実だとわかっているからね。
いい土には「団粒」というものがあって、これは機械ではできないんだよ。堆肥がつくりだすの。だけど肥料の入った堆肥ではこうはならないんだな。この粒の一個一個が水を持ち、必要のないものは吐くっていう仕組みになっているんだ。水はけ、水もちのよい土ということだね。これを目指してみんな堆肥をいれてきたんだ。しかし、一般の土はこれがなくなってしまっているから、水はけがよいだけになってしまうのよ。だから、どんどん、どんどん乾燥していってしまうんだ。堆肥をぼんぼん入れていれても、どうも備わらない。肥料を昔の倍入れないとできないんだよ。最初のうちは、「水はけ・水もちがよい」ってなんのことだろう、と思ったの。だけど、よく育つところはみんなこういう土になことに気づいたわけ。で、見てみると、たしかに水はけ・水もちがよかったんだ。これが深ければ深いほど、力がある土なわけだ。しかし、我々のところはまだまだ浅いね。
団粒と微生物の働きもなにかしら関係あるだろうね。微生物を培養して養殖して放す、みたいな話も聞くけど、それがすべてだと考えるのも違うんじゃないかな。必要なときに微生物が来て、必要のないときには彼らはでてこないわけだから。だから人工的に必要以上に入れたら、弊害が起こるよ、きっと。栄養剤と同じでさ、栄養が足りてないから栄養剤やサプリメントで補おうとしても、からだは狂うよ。どうしても考え方がそっちに偏るんだよな。
高橋博の「自然がなんでも教えてくれる」
・第1話 純粋なものでやっていく
・第2話 自分の感動が覚悟になる
・第3話 理想を理想じゃなくしよう
・第4話 はじめは「一」でいい
・第5話 入った毒は、自然がすぐに処理をしてくれる
・第6話 肩こりみたいな症状が土の中で起きている
・第7話 頭のなかの肥毒
・第8話 先を見て農業をやっていく
・第9話 自然流だと、最後はちゃんと実りがある
・第10話 大きな目標より目先のことから積み上げていくとうまくいく
・第11話 破壊のあとには必ず建設が待っている
・第12話 突いてばかりいるだけじゃなく、引いてみる
・第13話 一番いい種を残していく
・第14話(最終話) 自然に逆らわず、個性を認めあう
高橋博(たかはし・ひろし) 1950年千葉県生まれ。自然栽培全国普及会会長。自然農法成田生産組合技術開発部部長。1978年より、自然栽培をスタート。現在、千葉県富里市で9000坪の畑にて自然栽培で作物を育てている。自然栽培についての勉強会を開催するほか、国内外で、自然栽培の普及を精力的に努めている。高橋さんの野菜は、「ナチュラル・ハーモニーの宅配」にて買うことができる。 http://www.naturalharmony.co.jp/takuhai/
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