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マーマーなリレーエッセイより/#22 五十嵐武志さん、ひろこさん(50noen) 第2回

みなさん、こんにちは! マーマーな農家サイト ボランティアスタッフのなかむらです。


9月に入りました!

もうすでに稲刈りがはじまっている場所もありますネ。

マーマーなリレーエッセイ、 今回は「耕さない田んぼのポイント」についてのおはなしです。

それではどうぞ!

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田んぼに対する人間の仕事は?

五十嵐武志さんの師匠は、「冬期湛水・不耕起移植栽培」

で知られる岩澤信夫さん。

「自然」に傾倒する思想信条、ではなく、

純粋に、農家目線で安定供給するには?という視点で、

研究に研究を重ねて編み出した結果が、「耕さない田んぼ」でした。

第2回は、実際にどんなふうにお米を育てるのか。

では、さっそくお届けします。

自分はどうしたいのかが重要

スタッフK(以下、K) 田植えにも、いろいろな植え方があると思いますが、どんなふうに考えたらいいですか?

武 まず、前提に、「立派な稲を見たい、稲本来の姿を見たい」という場合、一本植えが一番いいです。収量は減りますが、自分がどうしたいかが重要です。

み 田んぼづくりでどういう経験をしたいのか、何が目的なのか、ということですね。

K それぞれの苗の特徴は、何ですか?

武 苗には、稚苗、中苗、成苗というふうに成長段階によって、名前が違います。ふつうの農家さんは稚苗を植えています。

ひ 今日植える苗は、成苗です。

武 ぼくがいつも植えているものと同じで、品種はコシヒカリです。苗そのものが病気にかかりにくい強い苗を使っています。

苗は本来、扇型に開くものなんです。一本植えをすると、本当にすごくきれいな扇型に開きます。

ひ 分蘖(ぶんげつ)といって、根っこのきわで、茎が枝わかれするんですが、それでいっぱい実をつけるんです。

武 でも、一本植えは鳥にやられたりしやすいから、田んぼ全部ではなく、ところどころにしたほうがいいですね。

K ふつうは3本ぐらいですか?

武 慣行農法の人は、通常5本〜8本で植えていると思います。

スタッフA(以下、A) ときどき、田んぼで稲が高く伸びているのが、複数本植えの稲ですか? 昨年、田んぼはすごいなあと思って眺めていたとき、見つけたのですが。

武 それはまちまちで、ひえという雑草の場合が多いです。一番やっかいな雑草なんです。

M でも、ひえも食べられるんですよね。

ひ もともと雑穀ですしね。

M ひえを積極的に栽培するという方法もありますよね。成長がすごくて、生命力があるから。

武 それもありますね。でも、田んぼをやりたくてひえを出さないためには、水を張って出さないようにすることができます。

スタッフT(以下、T) 一年中、水を張っておくということ?

武 一年中ではなくても、水の管理ができていればひえは出ないんです。土がでこぼこしていると出るけれど、平らにして水を張っておけば大丈夫です。

T 水がないところから、ラッキーといって、出てくるんですね。

ひ そうですね。ちょっと、こちらを見てください。




武くんの師匠である岩澤信夫先生が、長年かけて研究して稲本来の生理生態に合わせてつくった苗が、このイラストです。写真では、岩澤式と慣行農法の苗を比較しています。根の張り方の違い、穂のつき方の違い、がこれほどあります。



M 五十嵐さんたちは、運転式の田植え機を使っていますか?

武 ぼくは、機械を使わずに、手植え・手刈りでやっていますが、岩澤先生から学んだ人たちは、専用の機械で田植えします。

M この農法は、機械は使わないという考え方ではないということですよね。

武 はい、岩澤先生は、第一に農家がちゃんと暮らしていけるようにということが考えられています。ほかの農家と同じように、機械も使って……。

M 経済的にも割に合うように。

ひ 岩澤先生は、実は、もともと、福岡正信さんや川口由一さんのように、自然と共生することを一番の目的にしていたわけではないんです。農薬肥料を使わないということからではなく、農家目線からはじめて、稲の生理生態を研究していった結果、この方法に至ったんです。

昔、成苗が元気に育っている田んぼの様子を見て、慣行法の農家さんが使っている稚苗ではなく、成苗で、求めているお米づくりができないかを考え、いろいろと研究したんです。

K この岩澤式は、専業農家では取り入れられているんですか?

武 取り入れたい人は取り入れているそうです。でも実際、できる人もいるけれど、できていない人もいます。

2000年に岩澤先生の不耕起の学校がはじまり、ぼくは2007年に勉強をはじめました。今まで、実践している方々を見ていると、先生から聞いた話を、自分の都合に合わせていいとこ取りしている人もいる。そういう人は、成り立たないですね。でも、教えてもらったとおり、全部そのまま実践する人は、ちゃんとお米が育ちます。

み 自分のアレンジを加えないということですよね。

ひ そうですね。先生が、考えて考えてできた方法だから、まずは素直にそのままやってみて、何か思うことがあれば少しずつ変えていってもいいと思いますが。

田んぼを整えて見守るのが人間の役割

武 特に1年目は、草が出てきます。農家はそれで「草はダメ」だと思ってしまい、つい、いろいろと手を施したがるんです。たとえば、光合成細菌やEM菌を入れたり、田植え機にチェーンをつけて稲以外を除草したり。その場合、結局稲を見ていないから、稲の邪魔をしてしまうことになる、と考えます。

M EM菌や木酢液を入れるなど、世の中には、いろいろな農法があるけれど、この農法では、そういったものは使わないということですね。

武 はい、使いません。冬に、田んぼに水を張っておけば、生きものたちが勝手に整えてくれます。冬に水が使えない田んぼの場合は、例えば、一番使える3月から水を張っていればいいだけの話です。

そこから、雑草や生きものを見て、自分でどうすればいいかを考えればいいです。とにかく「耕さない」ことに意味があります。

み そうやって、菌を入れたり除草したりと、手を加えてしまう理由は何だと思いますか?

ひ 全体の仕組みをわかっていないからだと思います。「足りない」と思って入れているものは、本当は土の中にあるものなのです。見えない世界では、そのように微生物などの働きがあります。それをわかっていないから、不安になるけれど、わかっていたら、待てますよね。

人間ができることは、フィールドを用意すること、環境を整えること、見守ることです。

武 あとは、水を絶やさないことかな。それと、不耕起は環境にいいとか、冬に水を張ればコウノトリがくるとか、そういう思想から入ってしまうと、稲をちゃんと見なくなってしまって、うまくいかなくなるケースが多い。まずは田んぼをしっかり見る。そうして何もしなければ、勝手に生きものたちが出入りして、そのうちサギなども来るようになるものです。

み 昨日、土をならしはじめた時点で、もう、ツバメとかが来はじめましたね。感動しました!

武 とにかく、あまり頭で考えないほうがいいと僕は思っています。1年を通してずっと見ていけば、当然、全員が一致した状態にはならないはずです。その時に、自分の思った方法をやっていけばいいと思います。

ひ 現代人は、成果を求めてしまうところがありますが……。

み 高度成長期や、貧しかった時代だったら、収量をあげたいという欲があってもおかしくないけれど、これだけ豊かになってもまだ、それを求めてしまうのは、人間の悲しい性ですねえ。

スタッフH 不耕起栽培のことをもう少しくわしく教えてください。

武 まず、「不耕起」とは「耕さない」ということで、間違いないです。「耕していない」部分、表面から10cmぐらい奥の固い土の部分に苗を植えます。

ひ  岩澤先生の方法をベースにまとめた「耕さない田んぼのポイント」について簡単にお話ししますね。

まずこの農法は、第一に「冬期湛水・不耕起移植栽培」という名前の栽培法で、冬に水を張ります。水を張るタイミングは気候風土によりさまざまですが、南房総では12月下旬です。これが、先ほど話しました「フィールドを用意する」ということに該当します。微生物や藻が発生して、生きもののすみかとなり、田んぼの生態系が豊かになりますので、肥料農薬除草剤を使わないようになっていくのです。さらにもう1つ効果があり、それは水を張ることで雑草の発芽条件(光、水、酸素、温度)が成立せず、除草剤も必要ありません。

「不耕起栽培」の考えかたもさまざまですが、わたしたちが大切にしていることは、耕さないことで生きもののすみかを壊さないことと、5.5苗を植えるということです。固い土に丈夫な苗を植えることで、自分の力で根を張り、たくましく育っていきます。

このように、田んぼは本来、準備を冬の間にしておきますが、今回エムエム・ブックスの田んぼは1年目ということと時期が遅い(4月ごろにスタート)ため、それに合った方法ですすめています。

み もっと早くに準備をはじめていたら、ほかのやり方もあったのですね。

武 それもありますが、今回は、今がベストだったと思います。というのも、まず、田んぼをやる大前提が、土が平らだということなんです。ここは今年は、来年のために平らにしたというイメージです。



この方法は、雑草が出ないようにということももちろんですが、稲の生育にも関係しています。

ひ 土がでこぼこしていると、苗の生育にばらつきが出るんです。

武 生育にばらつきが出るということは、収穫にも影響があります。ベストなタイミングで刈れなかったりすると、ご飯の味もばらつきが出るんです。

(次回へ続く)






50noen | ごじゅうのえん

五十嵐武志・ひろこ

千葉県南房総市で、「自然の美しい秩序を見ることができる田んぼづくり」、「イネ本来の生理生態を活かしたお米づくり」をしている。土を耕したり、イネの生長に必要な肥料分を担っているのは田んぼに棲む生きものたち。「生きものを観察してフィールドを用意することがわたしたちの役割」と考え、「冬期湛水不耕起移植栽培」の第一人者、岩澤信夫先生から学んだ栽培法をベースに、五十嵐武志が10年以上「耕さない田んぼ」でお米づくりと向き合って培ってきた生き物・雑草・イネ・田んぼの観方とお米のつくり方をお伝えしている Web


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