高橋博の「自然がなんでも教えてくれる」| 第7話 頭のなかの肥毒

高橋博さん

『マーマーマガジン』20号の農特集でお届けした、自然栽培を続ける、高橋博さんのお話。21号からはじまった連載を、マーマーな農家サイトに場所を移して続けていきます。高橋さんの語り口調そのままにお届けします。
構成=服部みれい/再構成=松浦綾子

第7話 頭のなかの肥毒

自然栽培の教えにある自然規範。そのなかにもいろいろな項目があって、うちの研修生たちはその10項目をすべて学ぶの。一年居ようと三年居ようと。面接を受けるひとたちすべてにいっているのは、「うちからは一銭もお金はでないからな」ということ。畑で何時間働こうと、お金はでないよ、って。その代わり教習料はもらわない。その条件を飲んだひとたちが研修生になるんだ。前までは住み込みもやっていたけれど、いまはもうやっていないから、研修生はみんなアパートに入ってもらうしかないんだ。そうすると、アパート代と食いっぷちは稼ぐしかないんだよ。で、どうしようかとなったわけだけど、ちょうど隣町にナチュラル・ハーモニーの宅配センターがあったから、そこで週3回のバイトをやらせてもらえるようになったわけ。

で、ひとによっては週3でなく、毎日バイトをしないと生活していけない人もいる。そうするとね、毎日働かないといけないひとが、ひがみはじめるんだよ。だから、「ひがんだってなにも生まれないんだよ」っていってやるの。もしほかの人と同じ条件でやりたいのなら、ナチュラル・ハーモニーの始業時間、9時よりも前にうちに来て、就業時間の17時のあとにうちに来るしかないだろう、と。

そうしたらさ、本当にそういう時間に通ってくるわけよ。そうして学んでいって。ここでの研修で特徴的なのは、技術は学べないというところ。そういうものはアパートで一般書でも読んでくれてたらいい。うちでそこまで教えている時間はないからね。それよりも、自然を感知する能力をひっぱりだすことに集中する。
でもさ、ある40歳くらいの男性なんかは、それまでの過去や経験が邪魔して、その力が入っていかないケースもあった。頭のなかに肥毒があるんだよ。そのひとは、なにか教えてあげると、「そうですね」って返事をするんだ。ふつうは「そうですか」でしょ。「そうですね」ってのはつまり、「自分は知っています」ってことだよね。だからもう、わたしもいわなくなっちゃって。いってもらえないというのは辛いんだよ。

そう思ったから、それからは彼には特別に力を入れて指導するようにしたんだ。そうしたら、一年目のある日から一週間、畑にでてこなくなっちゃった。二年目なんか、一か月こなくなっちゃった。家の外から呼びかけていたらようやくドアが開いて、中からでてきたその男は、もう魂が抜けたようになっているんだ。そこで怒るでもなしに、「生きてるのがわかったから、帰る」っていって、わたしも引き上げてさ。そうしたらまた畑にくるようになったけど、またみっちり指導されるわけ。でも、それからはみんな以上に耐えていたな。

そこから彼は少しずつ変わっていって、みんなにかける言葉なんかもよくなっていったね。三年目には本当に素直な男になって帰っていったよ。
肥毒が抜けたんだろうね。肩に力が入るタイプだったんだけど、素直になって、「いい人生」って感じになったな。そんな感じで、土と同じで、ひとによっても時間のかかり方が違うんだよな。

高橋博(たかはし・ひろし)

1950年千葉県生まれ。自然栽培全国普及会会長。自然農法成田生産組合技術開発部部長。1978年より、自然栽培をスタート。現在、千葉県富里市で9000坪の畑にて自然栽培で作物を育てている。自然栽培についての勉強会を開催するほか、国内外で、自然栽培の普及を精力的に努めている。高橋さんの野菜は、「ナチュラル・ハーモニーの宅配」にて買うことができる。
http://www.naturalharmony.co.jp/takuhai/

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